棚卸では在庫を減らしたほうがいいの?【調剤薬局の棚卸について考える】

調剤薬局に限らず、商品などの在庫を持つ小売業では棚卸というものがあります。

棚卸のときに、 “在庫をしぼれ!” なんて言われた方もいるかもしれません。

また、在庫は減らさなくて大丈夫なんて言われている方もいるかもしれません。

では、どちらが正しいのでしょうか?

今回は、調剤薬局における棚卸と在庫の関係についての話です。

 

棚卸の意義

棚卸の目的は、在庫の状態を把握することや盗難や不正な在庫管理がされていないかを確認することなどです。

経営的には原価を確定し利益を算出することが大きな目的となります。

利益が確定しなければ会社は事業を拡大したり、見直しなどをすることもできません。また、利益を算出することによって社員さんに賞与を支給するなど、会計上とても重要なものです。

 

棚卸を行う回数は、最低でも年に1回、決算の際には行う必要がありますが、何回やらなければならないという決まりはありません。

正確な利益を算出するために毎月棚卸を行っているところもあれば、年2回というところもあります。

棚卸はとても意義のあるものですが、集計作業など労力も要するので、棚卸の頻度はそれらのバランスを考慮する必要があります。

 

原価と粗利の算出方法

原価とは、その医薬品などを薬局として実際いくらで販売したのかを表すもので以下のように算出されます。

原価=期首在庫金額+仕入れ−期末在庫金額

粗利とは、売上から原価を引いた利益のことで以下のように算出されます。調剤薬局での主な売上は調剤報酬額ということになります。

売上総利益(粗利)=調剤報酬総額(売上)−原価

この粗利から人件費やテナント料、光熱費、販管費などを差し引き最終的に純利益(最終的に会社に残る利益)が算出されます。

売上(調剤報酬総額)と仕入額だけでは、正確な利益を算出することができない

 

在庫を減らしても原価や粗利は変わらない!

棚卸のときには、何となく在庫を減らさなくてはいけないと考えている方も多いのではないでしょうか。

在庫数を減らすことによって利益が増える?!税金が安くなる?! なんて考えるひとも少なくありません。

もちろん在庫数を減らすことにメリットはありますが、棚卸のときに在庫数を減らしても原価や粗利は変わりません。

そして、税金は利益に対して課税されるものなので在庫数を減らしても納める税金も変わりません。

例えば、在庫額が200万円で仕入額が200万円だったものを在庫を減らして100万円にしたとすると、仕入額も100万円減るので仕入額は100万円となり原価は変わりません。もちろん原価が変わらなければ粗利も変わりません。

原価や粗利の観点からは、在庫数を減らすことに意味はない

意図的に在庫数を操作することは違法です!

利益に対して税金を納めたくないから、意図的に在庫数を少なく計上すれば利益が少なくできるのではないの?

確かにその通りですが、そのような意図的な在庫操作は絶対にダメです!

このように意図的に在庫数を操作することは粉飾決算となり刑罰の対象となります。

棚卸の集計作業は正確に行わなければいけません。

 

 

結局、棚卸は在庫を減らしたほうがいいの?

上記のとおり、在庫数を減らしても原価や粗利には関係ないことがわかります。

結局、在庫数は減らしたほうがいいのか?それとも減らす必要はないのか?どちらが正しいのでしょうか。

その答えは、 “ 時と場合による! ” です。

なにそれ!? どういうこと?? と思われた方のために、その “時と場合” について考えてみましょう。

 

在庫数を減らすことでキャッシュフローがよくなる

在庫数を減らすということは、もちろん仕入額も減ることになるので薬局として使える現金が増えることにつながります。

社員さんの給与であったり、さまざまな固定費は現金で支払われます。

極端に言えば、薬局の現金を仕入(在庫)にすべて使ってしまえば、会社に現金がなくなり、これらを支払うことができなくなってしまいます。

また、使える現金を増やすことで、事業拡大などに企てることもできます。

このような資金(現金)の流れのことをキャッシュフローといい、薬局を運営していくうえで、とても重要なことなのです。

このキャッシュフローが悪化することで、赤字ではないのに倒産する、いわゆる黒字倒産なんてこともあるのです。

ですので、過度な在庫を抱えることはリスクを増やすことになります。

 

 

在庫をたくさん抱えるリスクには、上記のように経営的なものだけでなく、適切な温度や湿度を維持しなければいけない、在庫を保管するスペースを確保しなければならない などもあります。

 

“患者さんにすぐ薬を渡せない” では意味がない!

キャッシュフローを意識しすぎて、薬局に在庫(医薬品)がない! なんてことでは薬局としての機能が果たせません。

薬局として経営を考えることは重要なことですが、何よりも患者さんにきちんとお薬をお渡しするということが第一です。

体調が悪い患者さんに、「在庫をしぼっていて薬がないので、また後で来てください」 なんて言えませんよね。

特殊な医薬品などは除いて、患者さんが来局したときに対応できる在庫を持つことは薬局としての責務です。

薬価収載されている医薬品は1万種類を超えます。その全てを在庫しておくのは不可能です。どのような医薬品を在庫として置いておくか、また在庫数はどうするか、など在庫管理は薬局にとって永遠の課題なのかもしれませんね。

 

薬価改定があるときは在庫を減らす!

棚卸のときの在庫数は、上記のように原価や粗利なども変わらないので、そこまで意識して減らす必要はありませんが、例外があります!

それは、薬価改定が行われるときです!

薬価改定では、多くの品目において薬価の引き下げが行われるため、そのような品目を多く抱えているほど損失となってしまいます。

例えば、薬価改定の前に薬価100円の品目を100錠、在庫があった場合、薬価改定で薬価が90円になったとすると

90【改定後】-100【改定前】(円) × 100(錠)=-1000(円)

つまり、在庫があるだけで1000円の損失となってしまうわけです。

あまり数は多くありませんが、逆に薬価が引き上げられる品目については多めに購入しておくことで得することができます。

 

薬価改定時の棚卸においては、薬価が引き下げられる品目の在庫数を減らすことで損失を回避できる

 

 

この記事が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

最後までご覧いただき有難うございました。

 

 

 

 

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