知らないと大変なことに!?【アミノグリコシド系の副作用】第8脳神経障害とはどのようなもの?

抗菌薬のアミノグリコシド系の副作用で、“第8脳神経障害” といものがあります。

薬剤師さんは国家試験などの勉強した記憶があるのではないでしょうか?

では “第8脳神経障害” とは、どのようなものでしょう?

第1脳神経や第2脳神経とはどこの神経?

今回は、副作用で問題となる “第8脳神経障害” を中心に脳の神経についての話です。

 

脳神経12対とその役割

わたしたちの身体には、無数の神経が張り巡らされていて、細胞や組織の間で情報交換しています。

脳からは主に左右から12対の神経が出ており、それぞれ位置によって前から後ろに向かって番号と名前がつけられています。

脳から出ている主な脳神経12対は以下のようなものがあります。

【主な脳神経とその役割】

第1脳神経【嗅神経】・・・嗅覚の情報を伝える。

第2脳神経【視神経】・・・視覚の情報を伝える。

第3脳神経【動眼神経】・・・眼球の運動(瞳孔)を調節する。

第4脳神経【滑車神経】・・・上斜筋を制御し、眼球の運動を調節する。

第5脳神経【三叉神経】・・・顔面、頭部の知覚の情報を伝えたり、咀嚼筋肉の運動を調節する。

第6脳神経【外転神経】・・・外側直筋を制御し、眼球の運動を調節する。

第7脳神経【顔面神経】・・・表情筋や涙腺・唾液腺などを調節し、舌の前2/3の味覚情報を伝える。

第8脳神経【聴神経】・・・聴覚、平衡感覚の情報を伝え、調節する。

第9脳神経【舌咽神経】・・・舌の1/3の味覚情報を伝え、咀嚼と嚥下を調節する。

第10脳神経【迷走神経】・・・咀嚼と嚥下、副交感神経を調節する。

第11脳神経【副神経】・・・首の筋肉(僧帽筋、胸鎖乳突筋)運動を調節する。

第12脳神経【舌下神経】・・・舌の筋肉を調節する。

 

聴覚を司る “第8脳神経”

主な脳神経は上記のように12種類あります。

主にアミノグリコシド系抗生物質で問題となる、“第8脳神経障害” ですが、この第8脳神経というのは聴覚や平衡感覚を司る神経です。

この神経に障害が起こるということは聴覚に何らかの問題が起こる可能性があります。

アミノグリコシド系抗生物質は、この“第8脳神経” に対して作用することで聴力障害などの副作用を引き起こす可能性があるのです。

 

アミノグリコシド系抗背物質は陽性荷電であり、細胞膜の主要成分であるリン脂質は陰性荷電です。違う荷電の物質が結びつくことが耳障害の発現機序となっていると考えられています。


アミノグリコシド系抗生物質は“グラム陰性菌”に効果

細菌は増殖する際にタンパク質の合成が必要となります。アミノグリコシド系抗生物質は、細菌がタンパク質を合成する際に必要なリボソームの働きを抑えることで、細菌の増殖を抑えます。

細菌は、大きく分けて “グラム陽性菌” と “グラム陰性菌” がありますが、アミノグリコシド系抗生物質はグラム陰性菌に効果的に作用します。

アミノグリコシド系抗生物質は濃度依存であるため、効果を出すためには最高血中濃度をきちんと上げる必要があります。そのため、適切な十分な量を投与しなければ期待した効果は得られない可能性があります。

 


“グラム陽性菌、グラム陰性菌の違いは?”

主な違いは細胞膜の構造の違いにあります。グラム陽性菌はペプチドグリカンというひとつの膜で覆われており、グラム陰性菌はペプチドグリカンの外側に脂質やタンパク質を含んだ外膜と呼ばれるものが存在し2層で覆われています。

問題となるのは比較的にグラム陰性菌の方が多いです。

【主なグラム陽性菌】ブドウ球菌、レンサ球菌 など

【主なグラム陰性菌】大腸菌、緑膿菌、レジオネラ菌 など

 

消化管からは、ほとんど吸収されない

アミノグリコシド系抗生物質は、消化管からはほとんど吸収されません。

そのため内服薬として使用する場合には、腸内の細菌に対してのみ抗菌作用を示すことになります。

アミノグリコシド系抗生物質で問題となる、“第8脳神経障害” や “腎障害” などの副作用はほとんどみられません。

ただし、まったく吸収されないということではないので長期的に投与する場合は念のため注意する必要があります。

 

内服薬として使用されるカナマイシンの適応症は感染性腸炎ですが、実際は肝性脳症の予防に用いられることが多いです。

神経毒性をもつアンモニアを産生する腸内細菌を殺菌することで血液中のアンモニアを減らすことが目的です。

肝性脳症に適応をもつ抗生物質にリフキシマというものがあります。

こちらもカナマイシンと同じようにアンモニアを産生する腸内細菌を殺菌します。

注意すべき副作用 “第8脳神経障害”

アミノグリコシド系抗生物質の耳毒性には、前庭神経障害と蝸牛神経障害があります。

前庭神経障害は、“めまい、ふらつき、嘔気、運動失調” などの症状がでることがあります。

これは前庭の有毛細胞が障害されることで起こるといわれるものです。

また、蝸牛神経障害は、“耳鳴り、聴力障害” などの症状がでることがあります。

こちらは内耳のリンパ液または組織液に移行したアミノグリコシド形抗生物質が外有毛細胞を障害されることから始まり、内有毛細胞に障害がおよぶといわれています。

 

第8脳神経障害は不可逆的

アミノグリコシド系抗生物質で問題となる重大な副作用に、“第8脳神経障害” と “腎障害” があります。

“第8脳神経障害” は不可逆的で投与を中止しても状態がよくならない副作用といわれます。

一方で、“腎障害” は可逆的で投与を中止すれば症状が改善するといわれています。

いずれにしても、副作用の発現が疑われた場合には、できるだけ早くに対処したほうが予後は良いです。

 

アミノグリコシド系抗生物質は安全域が狭いため、定期的に薬物モニタリング(TDM)をするなど副作用に注意が必要です。

内服薬の場合は、消化管からはほとんど吸収されることはないので、注射薬と比べると副作用の心配は少ないですが、長期間にわたり使用する場合には注意する必要があります。

 

腎臓の機能に問題がある場合は注意

アミノグリコシド系抗生物質は主に腎臓より排泄されます。

そのため、腎臓に障害がある場合や機能が未発達である場合には副作用を引き起こす可能性が増加します。

腎機能が低下している人や腎機能が低下している可能性がある高齢者、そして腎臓の機能が未発達な乳幼児では副作用の発現する危険性が高まるので注意が必要です。

ちなみに小児の腎機能は、およそ3~4歳までに成人と同程度になるといわれています。

聴覚障害は比較的、高音域から聞こえづらくなるため電子音など高い音が聞こえづらい状況がないか注意しましょう。

また、耳鳴も重要な初期症状のひとつです。

 

難聴の副作用には遺伝的要素が関係している?!

アミノグリコシド系抗生物質における難聴などの聴覚障害の副作用は、遺伝的要素があることがわかっています。

ミトコンドリア遺伝子1555A→G点変異がある人では難聴の副作用が発現しやすくなります。

家族で難聴の既往歴(特にアミノグリコシド系抗菌薬を使用後に)がある場合には、特に注意が必要です。

 

聴覚障害が問題となる医薬品

アミノグリコシド系抗生物質のほかにも、聴覚異常が報告されている医薬品があります。

白金製剤(一般名:シスプラチン)、サリチル酸製剤(一般名:アスピリン)、ループ利尿剤(おもにフロセミド)などは難聴を引き起こす可能性がある医薬品といわれています。

白金製剤の聴覚障害はアミノグリコシド系抗生物質と同じように不可逆的で、サリチル酸製剤とループ利尿剤については可逆的であるとされています。

ただし、サリチル酸製剤、ループ利尿剤においても不可逆的であるというデータもあるので注意が必要です。

これらの聴覚障害を引き起こす可能性がある医薬品を併用することで、さらに副作用が発現する危険性が高まります。

フロセミドによる聴力障害は、古くから知られていました。

聴力障害の発現機序として、内耳のラセン器外有毛細胞の細胞膜にあるATPアーゼが阻害され、ナトリウムや水が細胞内に流れ込むことで、細胞が膨隆するためであるといわれています。



この記事が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

最後までご覧頂き、ありがとうございました。

 

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